スクラムマスターをAIにやってもらうことはできますか?
答えはノーです。
まずは、スクラムガイド2020の記述を見てみましょう。
スクラムマスターは、スクラムガイドで定義されたスクラムを確立させることの結果に責任を持つ。 スクラムマスターは、スクラムチームと組織において、スクラムの理論とプラティクスを全員に理解してもらえるよう支援することで、その責任を果たす。
スクラムマスターは、スクラムチームの有効性に責任を持つ。 スクラムマスターは、スクラムチームがスクラムフレームワーク内でプラクティスを改善できるようにすることで、その責任を果たす。
ここで重要になるのが「責任」(原文だとAccountability)です。
Accountabilityの意味を辞書で確認してみましょう(出典: Cambridge Dictionary)。
the fact of being responsible for what you do and able to give a satisfactory reason for it, or the degree to which this happens:
すなわち、「自らの行動について、正当な理由を示し、納得のいく説明を行える立場にあること、またはその度合い」という意味です。一般的に、Accountabilityは日本語では「説明責任」と訳されます(日本語の「責任」は「説明責任(Accountability)」と「実行責任(Responsibility)」の区別がないため、ときに誤解を生みます)。
これをスクラムマスターに当てはめると、スクラムマスターは自分の取り組みやその結果起きたこと、判断の根拠などについて、スクラムチームやステークホルダーなどに説明できなければいけないということになります。 AIは作業について実行責任(Responsibility)を持つことはできるようになってきましたが、説明責任(Accountability)を果たすことはできません。
またスクラムガイドの他の記述も見てみましょう。
スクラムマスターは、スクラムチームと、より大きな組織に奉仕する真のリーダーである。
これは、スクラムマスターにはスクラムチーム内だけでなく、スクラムチーム外の組織にも積極的に働きかけることが求められている、ということを意味します。 当然、スクラムチームやスクラムチーム外に、いつ、どのように働きかけるのかは状況によります。 その状況を把握するためには、スクラムマスターは、スクラムチームを取り巻く環境を常に観察しなければいけません。 このような「観察」ができるのは人間だけです。
なお、AIがスクラムでのプロダクト開発に役立つことについては否定の余地はありません。スクラムマスターがAIを活用することも多々あります。 ただし、AIでスクラムマスターを置き換えることはできません。